豊予要塞 旧正野谷桟橋(軍用桟橋)
(伊方町  2010/3)

豊予要塞の愛媛県側には多くの遺構が残っており、筆皇との九州旅行で訪問の予定を立てたのだが、細かい遺構の位置などが分からなかった。
そこで自身のHP、「隧道探訪」で四国の戦争遺跡を紹介しているマフ巻さんにメールを出して詳細な場所の教えを請うたところ、何と車を出して案内してくれるとのこと。当日は松山近くから自分らの宿泊地であった八幡浜まで迎えに来てもらい、丸っと一日案内してもらった上、松山まで送ってもらった。

筆皇も自分も大層な人見知りであるが、若干愛想が良い自分が助手席、後部座席に筆皇が座った。案内してもらうのはいいが、見学の道中、無言が続いたらどうしようかと不安であったが、ざっくばらんなマフ巻さんのおかげで幸いそんなこともなく無事一日を過ごすことができた。


丹賀砲塔砲台に展示されていた豊予要塞の砲台配置図。
写真右上から伸びる佐田岬半島の先端が今回散策した佐田岬砲台。写真下部やや左側に前日見学した丹賀砲塔砲台が見える。

この日最初の見学は軍用桟橋。
第二砲台の資材を陸揚げする為に造られた軍用桟橋とのこと。

少し前までは無かったという道しるべ。
ただし車で通る際はよっぽど目を凝らしてないと見過ごしてしまいそうだ。

ご覧の通り、この先は自動車はおろか自転車でも無理。

案内してくれているマフ巻さん。
わざわざ自分らの為に車を出してくれた上に行き帰りの送迎までしてもらった。本当に感謝しております。おまけに割とそっち系の考えが似てて、話してて気持ちよかった。

波止場までは道しるべからひたすら真っ直ぐ歩くだけ。歩きながらあたりを見まわすと、それらしいコンクリート建造物跡が草木に埋もれて残っていた。

第二砲台へ向かう途中にあった標柱。
大正四年ということで、豊予要塞が建造される前のものらしい。他の面に文字の記載は無く、境界石でもなさそう。結局何かよく分からないまま。

しばらく歩くと、谷に入り込んだ状態で海が見えてきた。天気は良いのだが、いかんせん風が強すぎる。

マフ巻さん曰く、「今日はちょっと近くまで行けないかもしれませんねぇ…」。

波止場到着。
長さ約50m、幅約5m。


写真ではあまり分からないかもしれないが、昨年の悪夢を彷彿させる波の高さ。サブカメラ・携帯破損、両コンタクト紛失、さらに一つ間違えば「波と共に俺、グッドバイ」のトラウマでこれ以上先に行けない。

とりあえずマフ巻さんが先端まで撮影しに行くと思って待機していたが、動く気配が無い。沈黙が続く中、こちらの意図を察したのかマフ巻さんは一言、「えぇ、僕は行きません。危ないから…」。

じゃあ、ここで堤防撮影終了!?

「うむ、自分が行こう」
常に恐怖と立ち向かう男、筆皇はそう言い放つと何かを自分に手渡して駆け出した。

「待ってくれ、筆皇!」
筆皇は自分が心配していると思ったのか、こちらをチラッと見ると、ニヤリと笑って行ってしまった。

「何でカメラ持って行かないんだよ…、意味ないじゃん…」
掌に乗せられたカメラを眺めながらつぶやいた言葉はあっという間に風にかき消されていった。

堤防を守る為に設けられたという「波圧防止装置」から噴出す海水。

通り過ぎたはなから更に噴出す海水。昭和の仮面ライダーの爆破シーンみたいな迫力があって手に汗握ったが、単に手に海水がついただけかもしれない。

安全圏まで逃げ込んでやっと振り振り返ることができる。

「とりあえず、君のカメラで君をたくさん撮っておいたよ」、そう言ってカメラを彼に返すと、いつもの無表情の中にかすかではあるが満足そうな色が浮かんでいた。
本当は波止場の先からあちこち撮影して欲しかったのだが、どうも彼にとっては遺構云々より、「波に追いかけられるヘッポコな自分」が表現できて嬉しかったらしい。きっとまたコンパの時に使うネタになるのだろう。

「じゃあ、次は君な。」
意味が全く分からない。怖がりで痛がりの自分がなぜ行く必要があるのか。戸惑う自分を見て筆皇は一言、「君もなりなよ、ヘッポコに。」

無言で首を振って断ると、筆皇も無言で首を振る。
負けずに首を振って拒否するも、筆皇はメトロノームのように首を振り続ける。

負けたよ…。
行くよ、行けばいいんでしょ。

先端到着。
「何か忘れてる」、それには気づいたのだが、何を忘れているのか全く思い出せない。

昨年に比べれば足場もいいし、生命の危険は少ない。
それでも少し大きい波が来ると去年の稲村ジェーンが何度もフラッシュバックする。フラッシュバックしすぎて頭の中がチカチカするくらい。

もう限界。
緊張の糸が切れ、逃げまどうバッタのように跳躍して生還。

波止場の先端で何を忘れていたのか思い出し、筆皇に報告する。
「自分も写真撮れなかったよ、怖さで忘れてた。」

筆皇はカメラについた潮しぶきを拭いながら視線だけこちらに向けた。
「いや、君も立派なヘッポコだった。」

「そうだな…。」
「そうさ。」

「さあ、次ん所行きましょうか」
マフ巻さんは絶妙なタイミングでそう言い放つと、来た道を戻っていった。

「怒ってるのかな。」
「クールなんだよ。」
マフ巻さんを追いかけながら、二人のコソコソ話もやはり風にかき消されていった。

戦争遺跡トップ
鶴見崎砲台  軍用桟橋  第一砲台  第一砲台観測所  第二砲台  第二砲台観測所  司令部/佐田岬砲台他

観光トップ
ページトップ