高浜茶屋吉貴 その1
(高浜市  2010/2)

県内でもB級スポットとして名高い「紫峰人形美術館」と道路を挟んだところにある民芸品・土産屋。1階は店舗+実物大人形や鎧の展示、2階が有料の実物大人形による江戸時代の芝居小屋再現ショーとなっている。

最初外から店を覗くと中は真っ暗、閉まってるのかと思って声をかけてみると暗闇の中でおばさんが繕いものをしていた。
「人が来ないもんで電気消してるんですよ。」と繕い物の手を止めて明かりをつけてくれた。
あぁ、そうなの、びっくりした。

店に入ると奥に実物大人形がずらりと並んでいるが肝心の芝居小屋の案内が無い。気が弱いので言い出せずにまごまごしていると、おばさんは気配を読んだのか「二階に実物大の人形50体を使った芝居小屋が再現されてますよ」と案内してくれた。
見学料の500円を渡しておばさんと一緒に二階へ上がる。

「芝居は三本あるんですが、三本目はちょっと調子が悪いんです、すいません。」
おばさんが申し訳無さそうに断りを入れる。
まぁ動画撮るわけじゃないので関係ないし、いつものニソニソ笑顔で承諾の意をおばさんに伝えると、おばさんは満足そうに大きく一つうなずいて上演開始のボタンを押した。

「好きな所に座って下さい、終わったら実物大人形見てやって下さい。」
先に人形の写真を撮るつもりだったので少々面食らったが、スピーカーから流れる男性の案内ボイスに追われるようにあわててゴザの上に座った。


住 所 愛知県高浜市屋敷町1-6-5
(0566)54-0588
入場料 500円
駐車場
開館時間 9:00〜17:00
休業日 年末年始
H P なし

公演後に撮影した一階店内の様子。
木や竹で作られた民芸品などが売られているコーナーの奥に芝居小屋に入ることができなかった実物大人形が10体強並ぶ。

こちらは鎧兜展示コーナー。
デフォルトは鎧だけなのだ、2体ばかり怖い顔の人形に着せているパターンもあるので、何も考えずに順番に見ていくと少々びっくりする。

花魁と世話人、町人の人形があぶれた。
花魁あたりはあぶれたというより、近くでしっかり見せようと一階に置かれているのかもしれない。

それでも心なしか寂しげ。
夜になるとさめざめ泣くそうな。

世の中、自分とそっくりな人間が自分を含めて3人いるというが、それが正しくないことを暗に示す、太郎、次郎、三郎、四郎。

写真は明るさを調整しているが、実際は後列の次郎以下3人は暗くて薄っすらとしか顔が見えない。

二階に上がり、公演がはじまる直前に舞台背後を説明。楼上では既に石川五右衛門がスタンバっていた。

舞台の両袖から人形がスルスルとやってきた。
スピーカーからは歌舞伎ボイスと説明ボイスが流れて騒がしいのだが、なぜか寂寥感がただよう。l

こうして写真だけ見てると本物の人間のよう。

「よっ!玉屋!」
意味の分からない掛け声を投げかけると、チラっとこちらに視線を向ける。

舞台は変って第二幕、スピーカーからは延々と説明ボイスが流れる。
正直、写真撮影に必死でほとんど聞いてないのだが。

座席の両側では、芝居を観覧する人形達。
一階のお殿様、芝居そっちのけで意中の娘にアフターのお誘いをかけるも、いつものように笑顔でかわされる。

殿様と娘のこの後の展開が気になって、そのやりとりを眺めていたら、後頭部がチリチリする。

「斜め後ろ頭らへんに痛いほど視線感じないかしら」、「はい感じます」、と言うことで振り返ってみた。

そこには、妙にリアルに笑うおばさん、双子のおばあさん、そしてこちらを不敵に見下ろすおじさん。

このニュータイプのような感性は弱さ故の自己防衛か、自意識過剰なだけなのか…。
おじさんの視線を受けながらぼんやりと考え、そして目をそらした。

そしてオーラス、華やかな第三幕。

・・・スピーカーから全く音が流れず、人形が運ばれるキコキコ音だけが響いていたが、それぞれ持ち場につくと全くの無音。

これか、おばさんが言ってた調子の悪い第三幕って。少し気と姿勢を楽にしてみたものの、だんだん不安な気分になってくる。

人形も動かない、自分も動けない、緊張が高まる芝居小屋の中で先に沈黙をやぶったのは彼らだった。

背後でゴシュン、ゴシュンと響く音。
振り返ると石川五右衛門が首を左右に振っている。
恐らく「絶景かな、絶景かな」と大見得を切っているシーンなのだろう。

人形相手に息詰まる緊張。
この人形達が全てキューピーだったら、これほどの精神的疲労は無かったはず。さすがは人形師の作った人形達だ。

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